地上から見上げるとビルの八階というのは、東京ではさほど高い建物とは写らない。周りのビルや高架道路などが迫っているからだ。けれども、闇がせまりネオン輝く夜ともなれば、ここからの眺めも悪くない。
劇場はビルの最上階・八階にあるが、ここからまだ上にあがる非常階段などを使えば、より美しく夜景が胸に刻まれる。美しく、とは書いたけれど、そうではないかな‥‥、昼間のゴミゴミとした雑踏が隠されるからだろうか。
そんなに長い時間眺めているわけではなく、この非常階段に寄りかかって立ち、そこから見える東京の姿を眼にする瞬間が好きだ。
暮れの冷えた風を頬に感じながら、前にこの夜景を見てから一年が過ぎたんだなと思う。一年間太鼓を叩き続けてこられたなあと、実感する。一年に一度、自分を迎えてくれる夜景が美しく思えないはずがない。
第一回目の『歳末叩き合い 和太鼓 体感音頭97 打ち込み一本締め』と名付けた公演から数えて、門仲天井ホールでの12月公演は、これで五年目となる。
一年一年、今の自分にいったい何が出来るのだろうか、何をやりたいと思ってるのだろうかと、自問自答、手探りで作り歩んできた。
最初の三年が、佐藤健作とのコンビ、そして昨年からは熊谷修宏とのコンビ。共演者の力を最大限引き出して(いるつもりで)、意見を戦わせながら、自分もやりたいことをここでやる、その積み重ねだが、五年目の今回は集大成に近い形となった。
客席の中に舞台を組み立て、上下二本の花道を挟み、コの字型にお客さんが舞台を囲む。この劇場空間の隅々まで、窮屈なおもいを強いながらも客席を作り(お尻が痛かったお客様には、大変申し訳ございませんでした)、これでも入場できるのはわずか百人たらず。そんな小さな場所での公演。でもこういう空間が僕は好きだ。
採算的には非常に苦しいのだが、今回はブロンドール(ソックスの会社です)さんはじめ、たくさんの皆さまにも御助力を頂戴し、何とか終えることが出来た。
前回と大きく変わったのが、言うまでもなく衣裳。
これは鴇田章さんのコーディネイトと、伊藤晴美さんが会社も二日休み、最後の追い込みでは三日三晩徹夜して完成させたという作品。洋風の鮮やかな色合いが、まったく太鼓打ちらしからぬ姿で、「漫才コンビのように登場したい」という僕の願いをおしゃれに叶えて下さいました。
舞台の内容を言えば、漫才で登場してダンスを踊り、二人の寸劇と、一人語りのコーナーを作り、それからラブソングを歌って大太鼓に向かう。そしてアンコールがあれば、そこでも歌をうたう。歌もすべてオリジナル曲にした。
で、いったい太鼓の曲はどうなっているのだ?と聞かれてしまいそうだが、どれもこれも僕にとっては太鼓を聞いて頂くための演出になっている。
今回の太鼓新曲は一曲が熊谷作曲『MIYAHGO(二人版)』、と富田の『花花(おかま版)』。僕が一番悩んでいたのは、漫才や一人語りの台本作りと歌作りなのだから、これまた、太鼓打ちらしからぬ時間のかけ方でしょうか‥‥。
それから最後に忘れてならないのが、振付の今村ゆり子さん。
昨年はゲスト出演して下さいまして、今回はどうしても、少しだけでもいいから自分たちで踊りたいという、これも無理なお願いを聞いて下さり、大変お忙しい中、三回のレッスン時間をとって頂いた。
初めてのダンスレッスン、体の使い方一つでこんなにも表現が違ってくるのかという新たな発見、静かな感動を、レッスン中も後にも、熊谷共々隠せなかった。
足を運んで頂いた皆さまに、笑って泣いて少しだけ唸って、肩の力を抜いて楽しい幸せな気分で帰っていただければと、念じながら舞台に駈け上がり、叫び、叩き、歌った二日間。
あなたと あなたの大切な方に贈る
しあわせを呼ぶ 太鼓のひびき
和太鼓 新紀撃
誰も知らない、新しい太鼓の世界へと向かう扉は、まだ今、開かれたばかりだ。
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