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富田和明的個人通信

月刊・打組

2002年 10月号 No.80(11月1日 発行)

このページはほぼ毎月更新されます。年10回の発行

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ロンドン満天通信

10月17〜25日

 イギリスから帰国して早六日が過ぎた(10/31現在)。体の中ではロンドンで過ごした時間の記憶がいまだ鳴り響いている。現に今朝も三時半にはオメメぱっちり、どうしても眠れなくてパソコンの前に座った。
 二年前の夏、一ヶ月間の東京打撃団イギリスツアーに参加したが、その時のロンドン滞在はわずか一日。その前はとフト考えて日記を調べてみると、出てきました15年前(1987年)の三月。ロンドン・シアター・ガイドにもあります! サドラーズ・ウエルズ劇場で二週間の(鼓童)コンサートをしていました。もうそんなにもなるのかと思いながら、でも今回の旅は一人だったもんね〜と嬉しそうに呟きながら、全行程十日、実質八日間、短い旅を振り返ってみたいと思います。

 10月17日(木)
 成田から飛行時間は12時間弱。夕刻四時、ロンドン・ヒースロー空港に到着。
 この旅をアレンジしてくれた一人、Hさん(太鼓アイランド青葉のメンバーでイギリスに移住したばかり)と、僕がロンドン滞在中、部屋を提供し、またワークショップ開催等のサポートをしてくれたLさん(イギリスでは数少ないプロの太鼓打ち)が、ロビーにて満天の笑顔でお出迎え。
 そのまま市内Lさん宅へ、その後チャイニーズ・レストラン(さっそく中華です)で歓迎会。

 10月18日(金)
 鼓童のAさん(ロンドン事務局長)と再会。市内有名穴場?パブでお昼をご馳走になる。最初のほぼ二時間は、お互いにしゃべりっぱなし。フィッシュ&チップスの味も覚えていないくらい。何しろえらく久しぶり。気が付いたら外は陽が傾きかけていた。
 夕方五時半開演のミュージカル『シカゴ』を見るも、半分以上ぐっすり眠ってしまったらしい(自覚はない)。隣席していたHさんの証言によると寝言まで(それもとてもシリアスな場面で)。たった一言「あかんて‥‥」と言ったらしい(自覚はない)。夢の中で僕に何が起こっていたのか、自分でも気になるところ。その後、オックスフォードに車で移動。

 10月19日(土)
 朝から、午前の部と午後の部・入れ替え二回「和太鼓入門者の為のワークショップ」。オックスフォード・スクール(高校/学内の文字表示は英語とアラビア語だった)の集会所のような場所で行う。
 今回すべてのワークショップでお世話になった『バックス太鼓』の皆さんが、会場を探し、チラシを作って街に貼り、またインターネットで呼びかけてメールを出し、自分たちの太鼓を持ち寄り、僕のワークショップを実現させてくれた。
 久しぶりの英語は、まだうまく出てこないので、Hさんにサポートしてもらいながら進める。
 一般の人々対象に公募しただけあって、ほとんどの人がまったく初めてバチを握って太鼓を叩く人。日本人ならまったくの初心者でも、スッと入っていける部分で、かなり手こずった部分がある。でもみんなやる気で来ているので、一生懸命だったのが嬉しい。
 不思議なもので、そんな彼らの顔を見ていると、みんな日本人の顔つきに見えてくる。「こんな顔の人がいるな」と思わせる。太鼓を叩く時の気持ちって似てくるんだろうか‥‥これも太鼓マジックなのかと考える。

 10月20日(日)
 バックス太鼓のメンバーの為のワークショップ。彼らは最初から気合いも充分。
 土曜日とは違う稽古場で(こちらの人も太鼓の練習場所には、えらく苦労していて、なかなか借りられる場所がないそうだ。日本と同じですね)、昨夜泊まらせていただいたBさんの家から車で30分ほどの場所(Aylesbury)にある、マルチカルチャーセンター。メンバーそれぞれ持ち寄りの太鼓は、いろんな太鼓屋さんの太鼓があったが、くりぬきの宮太鼓は一台もなかった(普通、個人で買おうと決断するにはかなり勇気がいる金額ですからね。何かの補助がない限り難しいかな)。でもそうやってでも太鼓を叩きたい人が、こんなにいることがすごい。困難な状況にあるほど人は熱くなれるのだろうか。彼らにとっては、宮太鼓を叩くことだけでも憧れになっている。
 イギリスでは他にも世界各地の文化スポーツに対する興味が幅広く、カンフーや太極拳、少林寺、空手、気功などの人気にも驚くばかり。それに比べると和太鼓人気はまだまだかもしれない。アメリカの太鼓チームほどの盛り上がりにはまだなっていない。チームに日系人がいないのもアメリカと少し違う雰囲気を醸し出している。バックス太鼓には、中国系が二人、他にアジア系の人はいなかった。


 会場に朝九時半に到着して、準備の後、十時半から開始。お昼休みを一時間ほど取って、五時まで。たっぷりやる。
 内容は、僕が昨年作った『八重の恋』の一部。これは声もガンガンに出してみんなの気持ちも一つにまとめ、それから太鼓の打ち込みに入っていく。途中に、僕のデモンストレーションなども入れながら進めた。
 前日のワークショップよりも僕の英語もスムーズに出てきて、二日目にして慣れてきた気がする。それが終わってから、軽いパーティー。食べ物飲み物はメンバーの持ち寄り。そこでチームの太鼓演奏を聞かせてもらったり、僕は歌と三味線もやったりだったが、ワークショップの時間で燃え尽きていた僕は、ここでは静かな盛り上がりで終わらせる。すべてが終わって片付け、ロンドンのLさん宅まで戻ると、夜の九時半になっていた。

 10月21日(月)
 朝から雨。オフの一日。
 午後、ミュージカルのチケットを地下鉄レスター・スクゥェアー駅付近のディスカウント店で買い、雨があがったので夜の時間までコベントガーデンで過ごす。懐かしかった。大道芸人の姿はそんなに多くはなく。心なしか寂しい。
 日が暮れて『オペラ座の怪人』を観る。僕の左隣りは、シンガポールから来た新婚さんで終始べったり、右側はドイツ人母娘、前は日本人熟年カップル(なぜかまったく会話がない)、その隣りに韓国人ギャル二人連れ、僕の後ろは、たぶんイギリス人かな。もちろん満員。もう一番後ろのバルコニーまでぎっしり。世界中からお上りさんが大集合。こっちのミュージカルは、全部オーケストラの生演奏だから、音楽だけでも気持ちがいい。必死で寝ないように頑張る。

 10月22日(火)
 今日は、できればコベント・ガーデンで三味線を弾こうと思っていたが、朝から夕方までずっと雨。部屋で過ごした。
 ロンドンから車で一時間半、グレート・ミッセンデンの教会ホールで夜七時から十時まで、三回目の初心者対象ワークショップ。こんなに会場がいろいろと変わるのは、ロンドンで太鼓を叩ける環境が乏しいことがある。
 ワークショップでは僕も言葉にすっかり慣れ、大いに盛り上がる。我ながら順応速度の速さに驚く

 10月23日(水)
 ロンドンからオックスフォードに車を走らせ、昼12時から一時間、オックスフォード・ブルックス大学社会人類学学部で、「JAPAN AT PLAY/日本の遊び文化」というカリキュラムでの特別講座『私的日本の太鼓文化』を行う(ここではHさんの通訳付き。太鼓はLさんの協力で演奏)。
 時間がそんなにないので、講座というよりコンサートみたいなものになり、それも普通の教室でだから建物全体がすごい振動。よく苦情がこないもんだと、それに感心する。みんなは太鼓の音に寛大だった。もちろん聴講した学生、先生方は大喜びだ。ちなみにこちらのランチタイムは、午後一時から二時。日本の感覚と一時間のずれがある。
 講座の後さすがに疲れ、Bさんの家で少し休み、また夜のワークショップ会場まで車で走る。
 昨日と同じ会場だが、経験者コース。一般のワークショップはこれが最後で、参加者はもう初めての顔でなく、全員知っている顔だったし、僕もガンガンにやってしまい(どうも僕のノリは、こっちのノリに合っているみたい。日本でやる以上に参加者のノリがいいので、ついこっちもやってしまう)、終わった後しばし全員が放心状態。最後に感謝の気持ちを込めて三本締め(手締め)を行うと、「こちら(イギリス)にもありますよ」とバックス太鼓の代表Aさんが音頭を取って僕の為にイギリス式三本締めを披露してくれた。知らなかった、こんな音頭があったなんて。
 帰り路、お酒を飲みたくなったが、夜の11時を過ぎるとイギリスでは売店、レストラン、パブを含めどこにも販売されていない。見事だ。今夜もダイエットコークを飲む。

 10月24日(木)
 特にお世話になった方々の為のスペシャル・ワークショップをロンドン郊外の音楽スタジオにて、午後一時から六時まで。本当は夜に予定されていたのを無理矢理に変更してもらったのには訳がある。夜に舞台をもう一本観たかったからだ。そして観たのが、南アフリカから来ている『UMOJA/ウモジャ』。
 この一本のショウで、僕の意識がぶっ飛んだ。比べたら怒られるだろうが『オペラ座の怪人』の数倍、いや話にならないくらいの面白さ。小細工よりも人間そのものの勝利だ(と書いてもまだこれでは説明が足りないが)といえる。興奮状態で家路につく。

 10月25日(金)
 日本での太鼓熱は当然だとしても、それが北米にもヨーロッパにも広がっている事を実感する。見る立場から叩く立場に変わってきていることは日本だけのことではない。
 これは他民族文化への関心が高いせいでもあるだろうか。何処の国においても、他文化に対して閉鎖するのではなく寛容に受け入れ、また自文化を他者に伝える努力も必要だ。それも楽しく謙虚に
 慌ただしい滞在だったが、ロンドンはまたすぐにでも訪れてみたい街の一つになった。
 午後一時、これが初フライトになるという新ピカのジャンボ機に乗って、ヒースロー空港を飛び立った。

■一部の内容は、その日の気分打と重複しています

■新しく出会ったたくさんの人々に囲まれ、とても温かく、また熱く歓迎された毎日でした。本当に感謝しております。写真はバックス太鼓のみなさんと  

期間中の写真は、こちらにあります。1、2、3

■ロンドンで最初に色んな方にコンタクトを取り、未知数に近い僕を、各方面に紹介してくださったDさん、期間中、宿の提供から生活の面でまたワークショップなどでサポートしていただいたLさん、またLさん以上に僕に付きっきりですべての面でサポートし、時にはジョークの連発に辟易しながらもつい僕も乗せられ、日本とは違ったイメージの世界に連れて行ってくれたHさん、そして文中にもあります、すべてのワークショップの主催をしてくれたバックス太鼓のみなさん、たぶん他にもいろいろとお世話になった方があると思いますが、たくさんの皆さま方に‥‥‥どうもありがとうございました!


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インターネット版 『月刊・打組』2002年 10月号 No.80

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