1997年7月15日
僕がいつものごとく風邪と下痢と暑さでフラフラしながら兎小舎の入口のドアに手をかけ押し開いた時、姿も見えないうちに克次さんの挨拶の声がもう僕の耳に届いた。元気な人だ。
克次さんは狭い舞台の上で得意のストレッチ体操をしていた。ほんとに昔とちっとも変わっていない。いや、昔以上に元気な近藤克次がそこにいる。聞けば、ソロとして独立した後も一度本格的に腰を痛めたそうで、それがようやく治り、ここ一年ほどは体の調子がすこぶるいいらしい。
しかし元気の理由はそれだけではないだろう。毎日朝晩欠かさないというストレッチでほぐしたその体の柔軟さにも驚くばかりだ。まぶしく輝く克次さんを隣で、僕はあおられながら準備にとりかかった。
僕の体質として、相手があんまり元気に出ると僕の方は先ずちょっと引いてしまう、というのがある。
どちらかというと普段は逆のパターンが多く、僕がカラ元気を出してしまったりするのだが、今日はその必要がなく、元気で体がパンパンに張っている克次さんにまかせておけばよかった。
そしてじっくりと反撃のチャンスを狙う。こういうコンビの体制が非常に懐かしく、嬉しいことであったのだ。何といっても、克次さんとは話もしやすいし演奏もとても楽。たいした打ち合わせもなく、楽しく進行していけるのは、二人だからこそ成せる世界であります。
そして本番を終えて改めて感じたことだが、こんなに元気で溌剌としていた克次さんを見たのは、いつ以来なのか・・・思い出せない。
佐渡時代、一緒に過ごした長い時間の中でも見たことがなかったような、嬉しい笑顔だった。これまでの太鼓人生の中で、今が一番波に乗っている、そう語っているような近藤克次の顔が僕の目の前にあった。
克次さん、ほんとうにありがとう!
今回の内容は、佐渡国鬼太鼓座と鼓童にまつわる話一色に染まったのだが、お互いにまったく話足りないところで二時間がたち、残念ながら時間切れでこの会を終えてしまった。またいつかこの続編はやりたいものだ。
演奏した演目も「鬼剣舞」「二人三宅」「三味線合奏」「克次桶ソロ」「大太鼓」「酒屋唄」など、佐渡時代の懐かしい演目ばかりで、たまにはこういう会もいいだろう。唄も気持ちよかった。
打ち上げでは貝殻節も二人で歌ったが、やっぱり唄を一緒に歌えるのは本当に気持ちいいことだ。
最後に一つ、この日いらっしゃったお客様の皆様方に、この夜聞いた話の内容は、他の人に絶対にしゃべらないようにお願い申し上げます。
※タイトルにある「克丸」は鬼太鼓座当時使われていた克次の別名
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